HITOWAライフパートナーの「KEiROW」では、2017年から摂食・嚥下機能訓練器具「エントレ」を使った誤嚥(食べ物や唾液が誤って咽頭と気管に入ること)防止の取り組みを行っています。訪問鍼灸マッサージに嚥下トレーニングを組み合わせることで、高齢者の口腔・全身機能の改善に貢献しています。
高齢になると、口腔まわりの筋肉が衰えることにより、摂食・咀嚼・嚥下機能が低下し、誤嚥につながります。また、脳血管疾患の後遺症による麻痺等でも摂食・咀嚼・嚥下機能低下や会話の困難等が生じます。"健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間"である健康寿命の延伸を実現するためには、口腔周囲筋を鍛えて機能を維持・改善することが望まれます。
KEiROWでは、訪問鍼灸マッサージを行う施術家がご利用者様に嚥下訓練を行っていただけるよう嚥下訓練サポーターの育成に取り組んでおり、「2024年度末までに施術家(嚥下訓練サポーター)40名育成」を目標に設定しています。
何故、嚥下トレーニングが必要なのか?
総務省統計局によると、日本の総人口(令和5年10月1日現在)に占める65歳以上の人口は、3,623万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も29.1%となりました(※1)。
高齢者の増加に伴い、近年、フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)の予防や対策が注目されています。運動器の障害で移動機能が低下したり(ロコモティブシンドローム)、筋肉が衰えたり(サルコペニア)する「身体的フレイル」とともに、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」の予防が望まれます。
オーラルフレイルは、硬いものが食べにくくなったり、食事でむせたりすることで口腔機能の低下に気付いたり、医師から口腔機能低下症と診断されたりするケースがあります。しかし、「嚥下機能の低下や誤嚥にお困りの方に対して、サポートができる人は少ないのです」と語るのは、KEiROW 加盟店サポート課 運営支援担当で理学療法士でもある七戸勇仁。加齢により弱くなった摂食・咀嚼・嚥下機能を取り戻したり、口から食べられなくなったりした場合に直接胃に栄養を流し込む"胃ろう"を防ぐためにも、嚥下トレーニングが推奨されます。
KEiROWの嚥下訓練「エントレ」とは?
KEiROWでは、嚥下トレーニング専用の器具「エントレ」を使用しています。エントレは、舌や口腔周囲筋の機能訓練に着目した研究を40年以上続けている稲葉繁先生(元・日本歯科大学歯学部高齢者歯科学教授)が2005年に開発した器具を改良したものです。
エントレは、先端にあるマークに舌の先端を当てて口にくわえ、唇を閉じ、鼻呼吸をしながら器具を使用します。エントレでのトレーニングや体操を行うことで、舌や口腔周囲筋が鍛えられ、誤嚥を防止しやすくなります。また、左右対称に顔の筋群のトレーニングができるため、麻痺などの後遺症のリハビリにも効果が期待できます。
嚥下訓練トレーナーの認定資格制度
KEiROWでは、定期的にあん摩マッサージ指圧師や鍼灸師の国家資格を持つ施術家に、嚥下訓練サポーターの認定資格取得のための講座を開催しています。
稲葉先生が代表を務めている歯科医師によるスタディグループ「一般社団法人IPSG包括歯科医療研究会」が2021年10月に設立した「一般社団法人日本嚥下機能訓練協会」では、エントレを使用した嚥下トレーニングの講座を開設。受講者は嚥下訓練サポーターの認定資格を取得できます。
咀嚼、摂食・嚥下の基礎を学び、エントレの正しい使用方法を習得
2024年7月にKEiROWにて開催された、嚥下訓練サポーター養成講座には、加盟店から20名、本社から3名の施術家・スタッフが参加しました。
講師は、現在一般社団法人日本嚥下機能訓練協会の代表に就任されており、IPSG会長で飯塚歯科医院(埼玉県本庄市)院長の飯塚能成先生。研修では、口腔内の構造、食べ物を飲み込む仕組みなど、基礎的なことを学びます。
また、高齢者の嚥下障害、口腔機能の低下の改善、鼻呼吸の重要性についても学びます。
実際に器具を使用したエントレ体操
続いて、受講者全員に配布された器具の使い方を学び、実際に使用しながら一通りのエントレ体操を体験します。
エントレには舌の先を当てる位置に目印があり、正しくくわえることで、嚥下機能の訓練ができます。また、自然に唇が閉鎖されて鼻呼吸を促すことができます。
エントレ体操には、鼻呼吸を適切に行うための深呼吸トレーニングや、唾液の分泌を促すトレーニング、開口筋群トレーニング、舌の筋力トレーニングなどが盛り込まれており、受講者は飯塚先生が作成したDVDを見ながら一連の動作を確認します。
トレーニングにより口腔機能の改善が認められた症例
研修では、2012年にエントレと同様の機能をもつ前身器具「ラビリントレーナー」を用い、高齢者を対象に本庄市で実施した口腔機能向上事業の効果が紹介されています(※2)。それによると、ラビリントレーナーで毎日トレーニングを行った群は、毎日行わなかった群と比較して、肺活量、舌圧、口輪筋について改善が認められました。
また、飯塚先生が歯科医院でエントレを使用した口腔リハビリの症例が紹介されました。脳血管障害で麻痺、全介助となり、嚥下障害のため胃ろうとなった女性は口腔トレーニングを行った結果、普通食を食べ、歩行できるまでに改善しました。同じく脳血管障害で右麻痺となった男性は、リハビリを開始した後、麻痺していた唇が動くようになり、発音もほぼ正常に戻りました。
高齢者のQOL向上のために
高齢化が加速する中、KEiROWが提供する訪問鍼灸マッサージへの需要はますます高まっています。しかし、嚥下機能の低下や誤嚥防止に対して対応できる施術家は、サービスを必要とされる高齢者に対しまだ少ない状況にあります。
七戸は、高齢者のQOL向上のために「口腔機能の維持・改善に効果のある嚥下トレーニングの資格を持つ施術家を今後も増やしていきたい」と展望を語ります。「少しずつでも施術家が嚥下訓練サポーターの資格を持って対応できるよう取り組んでいきます」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2023np/index.html
※2 本庄市介護いきがい課、本庄地域包括支援センター安誠園、本庄市児玉郡歯科医師会が協力し、本庄市が選定した体力づくり高齢者事業の利用者19人に対して「ラビリントレーナー」を用いた口腔機能向上の効果について検証を行った。